海藻の可能性

 イギリスはコーンウォール、Cornish Seaweed Companyという会社が面白い取り組みをして一躍有名になった。その取り組みとは誰も興味を持たなかった「海藻」を事業化するというものだった。当初、海藻といわれると気持ち悪いといった印象が強く持たれていたのだが徐々にグルテンフリーのスパゲッティ海藻などが人気となり、今では年間20トンを手刈りしてヘアケア商品やスキンケア商品、さらには食用品とまでにシェアを拡大している。

 そんな「海藻」が近年、再び大きな注目を浴びてきている。それは日用品のような個々の幸せという規模ではとどまらず、地球の未来に向けた可能性を秘めているというのだ。

森より海藻

 海藻の特徴として一つ挙げられるのは、ずばり「成長が早い」ということだ。昆布やマクロワカメなどの大型海藻は葉を伸ばして短期間で大量のバイオマスを作る。種によっては日々数cm~数十cm伸び、年に数m~数十m分の成長が観察される。これは陸上の木々に比べ、短期間での光合成による炭素の固定化が早いことを示している。世界各国でカーボンニュートラルに向けて温室効果ガスの排出量を削減するための施策が上がる中、沿岸・海洋生態系が光合成によりCO₂を取り込み、海底や深海に蓄積される炭素量を増加させることは目標達成に大きく寄与するだろう。光合成で水中のCO₂(溶存無機炭素)を消費するため、海藻が盛んな場所では日中に周囲のpHが上がることが観測されており、これが貝類やサンゴの殻形成を助ける局所的効果をもたらす場合があるのだ。水中の炭素固定は陸上と比べてpH低下の観点から多面的価値があるといえるだろう。

 そう、温室効果ガス削減の観点から海藻は大きな注目を浴びているのだ。

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 昨今、海水の酸性化によっておこる海面上昇も海藻の効果によって影響を抑制に貢献できるかもしれない。

 しかし注意してほしいのは、炭素を「速く吸う」ことと「長く閉じ込める」ことは別で、長期的な炭素貯蔵効果は森林ほど安定しない場合もあるということだ。海藻が吸収した炭素は、海藻が枯れて分解されたり魚やウニに食べられたりすると、再び海水や大気に戻ることもある。もちろんこれらの問題にも対策を講じようと様々な実証実験が行われている。例えば、海藻が吸収した炭素を海面で分解させずに、深海や堆積場に輸送して長期埋蔵すれば大気中に戻りにくくなる、という考えに基づき、人工的に沈めたり、大規模養殖からの自然流出を利用する提案がなされている(もちろん深海への大量沈降は深海生態系への影響、酸素消費、解放される化学物質、地域社会・漁業への影響などといった副作用や、真正の「長期隔離(検証可能)」を示すための監査が難しい点が問題視され議論が続いているが)。

 しかし炭素を蓄えられるというだけで海藻のメリットは終わらない。

 純粋に海藻は「生態系」の観点からも優れている。藻場は構造物と餌を海中に提供するため、稚魚や貝類の生息・成長場所になりやすい。そのため、藻場を回復・造成すると、その周辺の生物多様性と魚介類の量が増えるケースが多いのは言うまでもないだろう。世界各地で、海藻や貝類の養殖・回復が周辺の野生魚の多さや種数を増やしたという研究・報告が出ているのは想像に易いだろう。

海藻の可能性は止まらない

 ここからは海藻の止まらない可能性について記したい。

 近年、海藻の成長の早さや二酸化炭素吸収能力が注目されてきたが、その可能性は気候変動対策にとどまらない。温暖化や生物多様性に加えて今、大きな環境問題として世界で課題感が残るのが「プラごみ問題」だろう。そんなプラごみにも海藻はアプローチをすることができるのではと注目が集まっている。

 先日興味を引く内容の記事を見つけた。Molecular Characterization of the Bacterial Community in Biofilms for Degradation of Poly(3-Hydroxybutyrate-co-3-Hydroxyhexanoate)Films in Seawater(Morohoshi et al., 2018)という論文で海洋でのバイオフィルムによるPHBHの分解に関する実証研究にまとめられていた。

 そこでは海藻の表面に形成される「バイオフィルム」と呼ばれる微生物の集合体が、海洋プラスチックの分解を促す役割を担う可能性があるというのだ。海藻そのものではないが、海洋微生物によるバイオプラスチック分解を実証したこの研究では海洋中で利用される生分解性プラスチックの一種「PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-共-3-ヒドロキシヘキサノエート))」フィルムを用い、海水環境下での分解過程を詳細に観察した。その結果、フィルム表面に豊富なバイオフィルムが形成され、一部はほぼ分解に近い状態になるケースが確認された。このバイオフィルムを構成する微生物群は、プラスチックの分子構造を分解できる酵素を生成しており、自然界での分解の可能性を裏付ける成果となった。

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 ここで注目すべきは、海藻の表面も同様に微生物の温床となりやすい点である。もし海藻養殖場などで特定の分解能力を持つ微生物群を増やせれば、「CO₂吸収+海洋ごみ削減」という二重の効果が期待できる。もちろん、天然プラスチックと石油由来プラスチックでは分解の難易度が異なり、実用化にはさらなる研究が必要だ。しかし、海藻が提供する表面環境を活用したプラスチックごみ対策は、海洋生態系保全と資源循環型社会の実現に向けた有望なアプローチといえるだろう。

 海藻は成長が速くて使い道が多く、環境や産業面で期待の種目が増えている。ただし『炭素固定をどう長期化するか』『餌添加の安全性』『深海沈降の副作用』など根本的な不確実性や社会的・規制上の課題が残る。それと同時に我々の想像をはるかに超えた可能性も秘めている。今後の研究から目が離せないだろう。

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