再エネの新星「海洋温度差発電」

 再生可能エネルギーといわれると何を想像するだろうか。

 太陽光、風力、地熱、バイオマス…。それぞれの発電方法に特徴があり、メリット・デメリットを持っている。では、もし再生可能エネルギーを定義づけるとしたらなんと説明するだろうか。枯渇しない資源を利用し、二酸化炭素の排出量がほとんどなく、エネルギーの地産地消が可能な発電方法といったところだろうか。これはメリットばかりを押し出した説明で初期コストが高かったり、天候や季節に左右される不安定さもあるのは言うまでもない。ではこれらの特徴を念頭に置いてあまり知られていない再エネの「新星」についてみてみよう。

海洋温度差発電

 南太平洋の中央に位置するフランス領ポリネシア。そこは大小118の島々から構成されているフランス領のタヒチがある。そんなタヒチでは世界初の試みが造船企業のNaval Groupによって行われた。Ocean Thermal Energy Conversion、通称OTEC。日本語では「海洋温度差発電」だ。

 海洋温度差発電は簡単にいうと、海の表面の温かい水と、深いところの冷たい水の温度差を利用して電気を作る発電方法のことだ。例えば表層水の温度が25〜30℃、深層水が約5℃である海洋領域があったとしたとき、これを利用し、この温度差で低沸点のアンモニアや代替フロンなどの液体を蒸発させてタービンを回し、発電を行う。蒸気になった液体は、深層の冷水で再び冷やされて液体に戻される。このサイクルを繰り返すことで、持続的に電力を生み出すことができるのだ。

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 この発電方法の最大のメリットは、天候や時間帯に左右されず、安定した電力供給が可能であるという点にある。再生可能エネルギーの中でも、太陽光発電は夜間や曇天時に発電量が落ち、風力発電も風が安定しないと発電効率が不安定になる。一方で海洋温度差発電は、表層の暖かい海水と深層の冷たい海水との温度差を利用するため、昼夜問わず一定の条件が満たされていれば、24時間365日途切れることなく電力を生み出し続けることができる。特に赤道付近の熱帯地域では、年間を通じて表層水の温度が25〜30℃、深層水が5℃前後と、水温差が20℃以上保たれている。このような地域では、季節変動や天候の影響をほとんど受けずに発電を安定的に行うことができるのだ。

 先述した通り、再生可能エネルギーは一般に出力の変動が課題とされており、それが電力系統のバランスを崩す要因ともなっている。風が止まったり、日照が途切れたりすると、そのたびに補完する電源が必要になるため、安定供給の観点からは課題が多い。その中で、海洋温度差発電は非常に出力の安定性が高い点で他の再エネとは一線を画しており、再エネの中で最もベースロード電源に近いといえるかもしれない。

 また、この安定性は特に島嶼部や沿岸の独立電力系統を持つ地域にとっては大きなメリットとなる。エネルギーの輸入に頼らざるを得ない小さな島々では、電力の自給自足が難しい現状があるが、海洋温度差発電であれば、現地の海洋資源を利用して持続可能なエネルギーを得ることができる。電力供給だけでなく、深層水を利用した冷房システムや海水淡水化、水産業、農業への応用も進めば、地域経済の循環にもつながり、総合的なエネルギーインフラとしての可能性も広がるだろう。

 

 しかし、課題も多い。メリットの裏を返すようだが、導入できる地域が限られており、表層と深層で約20℃の温度差が常に得られるような地域でなければ発電効率が落ちてしまう。さらに、深海から大量の海水をくみ上げる必要があるため、設備投資や維持コストが非常に高く、現時点では商業ベースでの普及が進んでいない。さらに、海洋環境への影響や配管の腐食など技術面でも克服すべき課題が残されている。これもまた「THE再エネ」といえるデメリットだろう。

 日本では沖縄の久米島で実証実験が行われているようだが、日本国内で導入できる可能性があるのは南のほうに限定されるだろう。

電力自給のカラクリ

 再生可能エネルギーは、「どこでも同じように活用できる」という万能なものではない。

 それぞれの技術には適した地形、気候、資源があり、導入に向いている場所とそうでない場所がはっきりと分かれる。風が強い地域では風力が、日照時間が長い地域では太陽光が、地熱活動が活発な地域では地熱発電が有利だ。海洋温度差発電もまた、その例外ではない。赤道付近のように、通年で安定した水温差がある地域でこそ真価を発揮するものであり、日本全土で一律に活用できるものではない。

 だが、それをもって「使えない」「コスパが悪い」「夢物語だ」と断じてしまうのはあまりにも短絡的で、未来への可能性を自ら閉ざす態度とも言える。再エネの多様性は、「どこでも同じ電源を使う」のではなく、「その土地に適した電源を組み合わせて活用する」ことにこそ意味がある。海洋温度差発電が有望なのは、まさにその「地域特化型エネルギー」の一つとしての役割を果たせるからだ。

 島嶼部や熱帯域の国々では、他の電源では安定的な供給が難しく、燃料を海外から輸入すること自体が経済的・地政学的リスクにもなりうる。そうした地域にとって、海の温度差という地元の資源から電気を得られる技術は、単なる電源ではなく「地域の自立」を支えるインフラとなる可能性を秘めている。深層水を活用した冷房や水産業、農業との複合利用など、地域経済を巻き込んだ新しい循環型モデルも描ける。

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 技術的な課題があることは否定できない。しかしそれは他の再エネ技術でもかつては同じだった。太陽光や風力も、今のような低コスト化と普及には長い時間と研究開発が必要だった。海洋温度差発電もまた、今は「未完成の可能性」かもしれないが、それを笑い飛ばすのではなく、「未来の選択肢の一つ」として真剣に向き合うべき時に来ている。

 

 再エネは万能ではない。だからこそ、多様な技術を排除せず、土地ごとの特性を見極めて最適なエネルギーミックスを構築していくことが、私たちが持続可能な社会を築くうえで不可欠な視点なのではないだろうか。

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