日本製鉄のサステナビリティ
今年の1月3日、バイデン前大統領の表明した命令が日本中に波紋を広げた。それは日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカーであるUSスチール買収計画をアメリカ政府が阻止するという内容のものだ。この話はトランプ大統領になった今のアメリカでもなお続いており、アメリカ政府の審査に基づき再検討を重ねているようだ。USスチールはアメリカの産業発展を支えた超老舗企業で鉄鋼産業のアイコン的存在ともいえる。
近年、海外の大型企業を日本企業が買収する事例はそこまで多くない。しかも、アメリカの象徴的な企業の買収は政治的・文化的にもハードルが高くアメリカ政府が介入している時点でどれほど日本製鉄がUSスチールを「買収できる」だけの資金力・交渉力があるという話になり、日本製鉄の格の高さが際立つ。
今回はそんな日本製鉄が行っている取り組みについて紹介しよう。
日本製鉄の環境報告
これほどまでに大きな企業は必ず環境報告を載せたサステナビリティレポート等を毎年出すわけだが、日本製鉄の環境への取り組みや目標はどんなものだろうか。
この章では「日本製鉄 統合報告書 2024」を基に大まかな取り組み内容を紹介しよう。
鉄は地球の質量の1/3の質量を占める豊富な資源であり、飲料水よりも重量当たりの値段が安い。そのため世界の金属製品の90%以上が鉄でできているといわれているのだ。これほどまでに我々の生活に欠かせない鉄鋼の分野が社会課題解決への潜在的なポジティブインパクトを持つのは言うまでもない。
鉄鋼産業における環境報告において忘れてはいけないのは「資源循環」というワードだ。
リサイクルと聞くと何の素材を連想するだろうか。多くの人はペットボトルなどからプラスチックなどが頭に浮かぶかもしれない。しかし、リサイクル率が非常に高い素材の代表例は『鉄』なのだ。日本国内での鉄のリサイクル率は脅威の90%以上で約86%である習慣化されたペットボトルのリサイクル率よりも高いのだ。実は鉄はとてもサステナブルな素材だ。そこで循環型社会構築における日本製鉄の取り組みを見てみると面白いことが分かった。それは廃プラスチックの資源化促進に多大な貢献をしているということだ。なぜ鉄鋼業がプラスチック?と思ったかもしれないが日本製鉄が「鉄の会社」なのに「プラスチック(ペットボトル)」に関心を持つ理由は、かなりロジカルだった。

鉄は「高炉(こうろ)」という非常に高温(約2,000℃)の炉でつくられるのだが、その過程で「炭素」が必要。そこで、ふつうは石炭を使うのだが 廃プラスチックも、炭素を含んでいるため、石炭の代替になるのだ。石炭の使用量を減らすことでCO₂削減に寄与し、プラスチックの焼却や埋め立てを回避することでゴミの量を減らし、自社の製鉄にうまく循環させられることで資源ロスが少ない効率化された業界の構成を確立できる。これは言うまでもなくサステナブルだろう。
ここでは文章量の関係から省略させてもらうが、他にも日本製鉄は生物多様性保全のために森づくりに貢献したり、海づくりにも貢献している。
そして多くのステークホルダーが関心を寄せているのが「気候変動対策」だろう。
これがまた、とても面白いのだ…。
製鉄プロセスから生まれた“ブルーカーボン”
日本製鉄は、独自の「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を掲げ、2030年にCO2総排出量を対2013年比30% 削減し、2050年カーボンニュートラルを目指すというCO2排出量削減目標を策定している。 さらに、CO2排出量の大きい高炉・電炉を有する国内外連結粗鋼の対象会社で、2030年にCO2総排出量を対 2013年比で30%削減するというCO2排出量削減目標を策定している。
製鉄プロセスで発生するエネルギーの有効利用、各工程における操業改善、コークス炉等の老朽設備更新、高効率発電設備・酸素プラントの導入、加熱炉リジェネバーナー化等による省エネルギー化に取り組み、2013年から約26.2%(2023年までに)エネルギー期限の二酸化炭素排出量を削減している。
そんな中、日本製鉄が取り組む気候変動対策の中で最も私がユニークだと感じた内容を紹介しよう。それがブルーカーボンだ。
Jクレジットという言葉を聞いたことはないだろうか。JクレジットとはCO₂などの温室効果ガスを削減・吸収した量を「クレジット(排出権)」として国が認証する制度のことだ。生態系を保全・再生することで吸収された二酸化炭素量を金融商品のように経済的価値のある権利として持つことができるのだ。そのJクレジットと同様に取引できる排出権を海洋生態系に絞った制度がJブルーカーボン・クレジットスキームだ。
なぜ海洋生態系にフォーカスを当てたかというと、実は海の藻類や海草は、単位面積あたりのCO₂吸収量が陸上植物より高いのだ。それだけではなく海藻や海草は二酸化炭素を海底に炭素として長期間閉じ込める役割を持っているのだ。そのため、近年になってブルーカーボンの注目度が劇的に上がっている。

近年、生態系の乱れや水温の上昇によって海藻類が失われ海底が不毛となる磯焼け現象が世界中で報告されている。しかし海藻類は鉄分の供給不足によって磯焼けするケースも多くあるのだ。そこで日本製鉄は鉄を作る際にでる副産物である鉄鋼スラグを活用した海洋利用技術の開発を通して藻場によるCO2吸収の促進を一層推進し、ブルーカーボンに寄与しているのだ。具体的にいうと、鉄鋼スラグと腐植土を混合させた「ビバリーユニット」という海域向け鉄鋼スラグ施肥材を袋詰めにして埋設することで、埋設部から沖合近くの海域に昆布等の海草へ鉄分が供給され海藻藻場が拡大するというのだ。この基礎研究の結果に基づきJブルークレジットの発行を受けている。
多くの日本企業は、環境への投資を通じて社会的責任を果たそうとする傾向があるが、日本製鉄の取り組みはそれ以上の意義を持つ。単なる投資にとどまらず、業界を牽引する立場から、より効率的な資源配分や未開拓の分野への挑戦を通じて、自らの強みを活かした気候変動対策を主体的に実行している点が注目される。こうした「業界でできることを考え続ける姿勢」は、単なるCSRの枠を超えた、本質的かつ持続可能な企業のあり方を示しており、非常に意義深いと言える。消費者である我々もステークホルダーの一員として企業の社会的責任にはしっかりと目を光らせる必要がありそうだ。
(参考文献)日本製鉄株式会社 統合報告書2024


