オゾン層破壊から学ぶ成功例と失敗例
強力な紫外線は人体にとって脅威だ。紫外線は皮膚のDNAにダメージを与え、そのダメージが積み重なると発がんのリスクが大いに上がる。紫外線のダメージは肌だけではなく免疫システムの低下や目の健康被害の原因にもなり、とても危険だ。太陽から地球へ降り注がれる紫外線の総量は莫大で人体に悪影響を与えるほどの数値だ。しかしそれらを吸収し地上への紫外線量を激減させる役割があるモノが地上約10~50㎞圏内に存在することをご存じだろうか。それが「オゾン層」だ。いまから約45年前そのオゾン層が破壊されている事実が発覚し、大きな問題として大々的に取り上げられた。しかし今ニュースや新聞でオゾン層破壊の報道を見聞きすることはほとんどない。そう、この問題はほとんど解決しているのだ。そして、オゾン層破壊における環境問題対策は「成功例」として代表的に挙げられているケースが多い。今回はそんな成功例から学ぶ環境問題への取り組み方を考えていこう。
オゾン層破壊が成功例と称される所以
「フロンは燃えにくく、化学的に安定しており毒性がありません。そのうえ安価であることから冷蔵庫から建物のビルにまで様々な方法で使われています。そう、フロンこそ魔法の化学物質なのです。」
アメリカの科学者であるトマス・ミジリーによって発明されたフロンは当時世紀の大発明と称されていた。それから約60年後、「太陽からの強力な紫外線を吸収するオゾンの全量が減少している」という事実に多くの人がその原因を探るものの、解明はすぐにされなかった。人々は恐怖におびえ、皮膚がんや白内障の発症リスクを高めることに震え上がった。
そしてついに1974年、科学者であるマリオ・モリーナ氏とF・シャーウッド・ローランド氏は魔法の化学物質といわれたフロンがオゾン層を破壊していることを発表する。ではこれを境にフロンの使用が止まったかといわれたらそんなことはない。世界規模で普及し、その利便性の高さ、直接的な人体への悪影響がないことから規制をかけるにはこの発表だけでは信ぴょう性に欠けたのだ。こうして経済的な利害関係や科学的な根拠の不足により、すぐには問題視されなかった。
そこに新たな風穴を開けたのがジョゼフ・ファーマン氏、ブライアン・ガーディナー氏、ジョナサン・シャンクリン氏だ。彼らイギリスの南極調査チームは南極上空のオゾンホールを発見した。オゾンホールとは簡単に説明すると、フロンによるオゾン層破壊が気温、水蒸気量、大気中の塩素・臭素の割合によって春先の太陽光に照らされることで急激に進行しオゾン層にぽっかり穴が開く現象だ。彼らの発表は人工衛星データと地上観測の組み合わせによる複合的な調査の末、劇的な地球環境問題であることを世界中に知らしめた。ここから一気にオゾン層破壊は国際的な環境問題として対処されることになる。
オゾンホール発見から2年後、採択されたのが「モントリオール議定書」だ。それよりも先に「オゾン層の保護のためのウィーン条約」というものができていたのだがそれはあくまでもオゾン層を保護するための国際的な協力の枠組みだった。モントリオール議定書のストロングポイントは史上初の世界的な環境規制として、多くの国に迅速に構想喚起を促したということだ。
(1)「オゾン層の保護のためのウィーン条約」の概要
本条約においては、締約国が、
- ア オゾン層の変化により生ずる悪影響から人の健康及び環境を保護するために適当な措置をとること(第2条第1項)
- イ 研究及び組織的観測等に協力すること(第3条)
- ウ 法律、科学、技術等に関する情報を交換すること(第4条)等について規定している。
2)「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」の概要
ア 議定書に定める規制措置
本議定書において規定する主な規制措置は次のとおりである。
- (ア)各オゾン層破壊物質(ODS:Ozone Depleting Substances)の全廃スケジュールの設定(第2条のA~I)
- (イ)非締約国との貿易の規制(規制物質の輸出入の禁止又は制限等)(第4条)
- (ウ)最新の科学、環境、技術及び経済に関する情報に基づく規制措置の評価及び再検討(第6条)
- (エ)代替フロンとして使用されるハイドロフルオロカーボン(HFC)の段階的削減スケジュールの設定(第2条のJ)(2016年の議定書改正で追加)(以下省略)
その後ロンドン改訂、コペンハーゲン改訂、ウィーン改訂などを通してフロン使用の規制を世界が協力して実行していった。その結果、議定書の成功により、2025年現在オゾン層は回復傾向である。

オゾン層保護が国際社会で環境問題に対して協調的に取り組み、明確な成果を上げた事例として取り上げられるに至った背景には明確な科学的根拠、迅速な国際協力、政策の柔軟性そして経済的負担を最小化する工夫が施されていたからだろう。その中でもモントリオール議定書は国際協力を高め、規制を具体的な目標によってかけ、国家間の公平性を配慮しながら迅速に対応したことで「成功事例」として多大な評価を受けている。さらに付け加えると技術開発の面でフロンに代わる代替フロンなどの開発が成功した点なども個人的にはオゾン層保護に貢献したと感じている。
何はともあれ、化学に基づく政策形成、国際連携、段階的な目標設定、柔軟な対応力が環境問題の脅威から我々の生活を守った決定的な理由ではないだろうか。
失敗例の地球温暖化問題
オゾン層保護を成功というなら、今我々が直面している地球温暖化に関する対策についてはどう評価できるだろうか。産業革命以前に比べて、世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるという努力目標は現実的に難しくなりつつある。結果論からすると失敗事例としてとらえられるだろう(もちろん1.5℃目標は2050年までの経過段階の目標でしかないためこれ一つで判断は適切ではないが)。ではなぜここまで地球温暖化対策は難航しているのだろうか。
まず一つ目は科学と政策でのギャップだろう。科学者は早くからリスクを警戒していたが政策への転換が遅かったことは言うまでもない。またオゾン層破壊による紫外線の影響に比べ、早期的かつ直接的な影響がないため深刻さを軽視していることがあげられる。
そして2つ目は国際的な合意の困難さだ。最近でもアメリカがパリ協定を離脱したりと国際的な協力が難航している。これの主な原因は経済的な利害関係による対立があるからだろう。エネルギー資源の転換は化石燃料による経済発展が顕著な国には大きな損失だ。難航している国際関係は複雑に絡み合い地球環境問題の解決にとって大きな足かせとなっているのだ。対して、オゾン層保護に関するモントリオール議定書は多くの国の合意を確実なものとしたことで国際協力をより強める役割をした。
そして最後がイノベーション力の観点だ。身近なところでいうと再生可能エネルギーだ。初期投資、維持費等に莫大な資金がかかりエネルギー転換を望むものの画期的な技術面による生産性向上が追い付いていない。これは仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが、発展途上国などでは先進国で当たり前なインフラ設備すらなく温暖化対策にまで目を向けられないのが現実だ。イノベーションにより環境のためではなく自国の利得のために導入されるような画期的な技術開発が求められる。もちろんオゾン層保護のために作られたフロンの代替物質はその点、イノベーションという観点で環境保護に大きな役割を果たした。

地球温暖化対策が成功するに我々はオゾン層保護の事例から国際協調・規制の強化・技術革新の重要性を改めて学ぶべきではないだろうか。モントリオール議定書のような法的拘束力のある枠組みを設け、各国が明確な削減目標を持つこと、さらには企業へのインセンティブ導入や再生可能エネルギーの技術支援を強化し、持続可能な経済成長と環境対策の両立を図ることが大切だろう。短期的な利益よりも、長期的な視点での責任ある行動を以上の点を踏まえて実行していくことが求められるだろう。


