首都移転から見える「持続可能な開発」の難しさ
東南アジア南部に位置する共和制国家であるインドネシア。日本の「東京一極集中」と同様インドネシアでもジャカルタがあるジャワ島への一極集中が問題視されてきた。2022年1月、インドネシア政府は首都をジャカルタからカリマンタン島の東部であるヌサンタラへ移転することを発表した。新都市の開発コンセプトは「スマートで、ビューティフルで、かつサステイナブルな都市」だ。ITを活用しながら環境にやさしい都市となることが目標であるヌサンタラ。その実状は持続可能な開発の難しさを語るものかもしれない。

フォレストシティを目指すヌサンタラ
ジャカルタからおよそ2000キロ離れたカリマンタン島の東部に位置するヌサンタラ。インドネシア政府はここへの首都移転を2045年までに完了させる計画を立てている。一極集中や地盤沈下、巨大地震のリスクなどから首都を移転する運びとなったのだが、移転地のヌサンタラは自然環境に富んだ森林も多い場所のようだ。そんなヌサンタラに首都を移転するのは莫大な政府予算をつぎ込み持続可能な開発を目指す政府の本気度が問われるだろう。

ヌサンタラの土地面積は約25万2600ヘクタール、海洋面積は約6万9769ヘクタールに達する。政府中枢機能が建設される中心地区では、土地の65%を保護森林地区と再森林化地区とする予定のようだ。「森林都市(forest city)」 というコンセプトに基づいて設計されるとアピールしていることは先ほども述べたが、単に「グリーン」なだけでなく、「スマートで、ビューティフルで、かつサステイナブルな首都」という目標は具体的にどう達成されるのだろうか。例えばカーボンニュートラルな町づくりについてだ。
The third phase of Nusantara’s development, scheduled between 2029 and 2035, will focus on sustainability. The city aims to be carbon neutral and planners have included smart technologies and climate-resilient features from the start.
For example, Nusantara will get all its energy from renewable sources. It will dedicate 10% of its area to produce food and ensure that 80% of journeys are made by public transport, cycling or walking. It will treat and recycle water. And it will include “sponge city” features, pioneered in Rotterdam and Shanghai, that reduce the risk of flooding by creating ample green spaces and water-catchment reservoirs to absorb excess rainwater.
Mr. Hendricus says there is also an opportunity to transform into native forest the eucalyptus plantation where the capital will sit. “President Jokowi has a forestry degree. If we actively worked to restore the tropical forest, this could be his legacy,” he says.
(2029年から2035年の間に予定されているヌサンタラの開発の第3段階は、持続可能性に焦点を当てます。この都市はカーボンニュートラルを目指しており、プランナーは当初からスマートテクノロジーと気候変動に強い機能を取り入れてきました。
たとえば、ヌサンタラはすべてのエネルギーを再生可能エネルギー源から得ます。面積の10%を食料生産に充て、移動の80%を公共交通機関、自転車、または徒歩で行うようにします。水を処理し、リサイクルします。また、ロッテルダムと上海で先駆的に開発された「スポンジシティ」機能も含まれており、過剰な雨水を吸収するための十分な緑地と集水池を作ることで洪水のリスクを軽減します。
ヘンドリカス氏は、首都が位置するユーカリ農園を原生林に変える機会もあると言います。「ジョコウィ大統領は林業の学位を持っています。熱帯林の再生に積極的に取り組めば、これが彼の遺産になるかもしれません」と彼は言います。)
引用元:WSJ BUSINESS
しかし課題もある。道路やガス、水道といったインフラや政府庁舎を新たに建設することになるため、森林の伐採は少なからず必要だろう。そう「森林都市」を建設するために森林破壊が進むという矛盾が生じるのだ。この点において批判的な意見を持つ人も多いようだが都市開発における環境問題の矛盾は日本で地方創世の一環として行われている「スマートシティ」にも見て取れるのではないだろうか。
日本の大都市圏における自然環境保護の現状
スマートシティに限らず日本における都市開発は緑地面積減少や生物多様性の不安定化をもたらしてきた。わかりやすい例でいうと都内の近郊地域が例に挙げられる。住宅開発に伴い緑地の減少が進み環境省が発行している環境白書によると、特に都心から20km~40kmの圏域での変化が顕著だという。

多摩ニュータウンや港北ニュータウンの開発による市街化が森林の減少に直結しているのは見て取れるようだ。しかし、もともとニュータウンとは都市部に人口が集中することでヒートアイランド現象や交通渋滞による移動に伴う排気ガスの排出量低減効果が期待できるとして認知されていた一面もあった。近年、話題のスマートシティもICT技術を駆使して地方に分散した人口を適度に集め運営する都市として注目を集めるものの、都市開発や新たなインフラの建設によって自然環境や生態系が破壊されることが懸念されている。新しい交通網や建物が動物の生息地を分断することがオフライン上での「開発」にはつきものなのだろう。環境リスクを下げるために行われた開発が準備段階で負荷を与えることはヌサンタラの事例に限らず起こりうることなのだ。
開発における環境問題への負荷低減は今後も共通の課題となるだろう。爆発的な人口増加により食料だけでなく人間の住む場所も必要になる。今一度SDGs、持続可能な開発目標の本質を考えていく必要があるのではないだろうか。経済と環境を両立し、人間とそれ以外の動植物が共存できる社会構造はまだまだ課題が山積みだ。


