国境から見える経済と環境の相関関係

 食糧不足や疫病、地球温暖化などの問題を引き起こす可能性があり、絶滅により生物多様性のリスクが懸念される森林破壊。農村部の人々をはじめとした我々の生活にも直接的に悪影響を及ぼすのは想像に易いだろう。しかし現状、世界の森林は減少を続けており毎年330万ヘクタールが減少しているといわれている。これは東京ドーム約70個分に匹敵する。「森林伐採=悪」というイメージは共通認識であるにもかかわらずなぜここまで変わらない現状が発生しているのだろうか。そこには経済的な面での強者と弱者の関係が見えてくる。

ボリビアとブラジルの国境から見える森林伐採の裏付け

 まずは以下の写真を見てほしい。Google mapで上空から見たボリビアとブラジルの国境の写真だ。西側(画面左下側)がボリビア、東側(画面右上側)がブラジルだ。

 

 深緑は森林で黄土色な面が平地、または農地だ。国境を境に森林の植生割合が歴然である。同じ気候、土地で国境を境にここまでの違いがあるということは人工的な要因があることは何も言わなくても想像できるだろう。緑豊かなボリビアに比べブラジルは森林がなく平地となっている。南アメリカは世界最大級の熱帯雨林であるアマゾン熱帯雨林を有しており、地球規模での気候調整や生物多様性に大きな役割を果たしている。そんな自然豊かな南アメリカでこの異常な光景は誰が何と言おうと「悪」だ。ではなぜこんなことが起きるのだろうか。

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 1825年にスペインから独立を果たしたボリビア。独立当初から市場経済化に向け改革を進めていったものの貧富の格差などの悪化を背景に先住民を中心とする反政府運動などが頻発していた。そんなボリビアの主要産業はボリビア基礎データ|外務省にもある通り天然ガス、鉱業(亜鉛、銀、鉛、錫)、農業(大豆、砂糖、トウモロコシ)と天然資源や農作物など自然環境に寄与するものばかりだ。対してブラジルは1822年にポルトガルから独立したのち早期に経済安定化の実現を果たしたといえるだろう。名目GDPが431億ドルのボリビアに比べブラジルは2兆1736億ドルとその差は歴然としている。これこそがこの国境を挟んだ「差」の根端だ。ブラジルの主要輸出品で目を引くのは大豆だ。外務省のブラジル基礎データ|外務省を見ると主要輸出品目で最も多いのは2023年時点で大豆(15.7%)である。ブラジルは世界最大の大豆生産国の一つであるのだ。では大豆はどの程度環境に負荷をかけているのだろうか。近年、急激なビーガン思考の普及により大豆ミートなどが環境負荷低減になると大きな期待を寄せている人も多いのではないだろうか。しかし急激な大豆の需要増加にかかわらず大豆生産の拡大による森林の農地への転換はそのスピードを上げている。WWFのレポート『森林破壊の最前線(2021年)』では、世界で最も森林破壊の危険にさらされている24か所の中には ブラジルのセラード、アルゼンチンのグランチャコといった、大豆の生産地も含まれている。経済成長に欠かせない大豆の生産が国の経済規模を拡大させた反面、経済規模が拡大した要因の輸出品は環境保護の概念を無視するほど必要なものとなり、いわば「発展・維持のための拡大」へと暴走した歯車を形成しているのだ。大規模な農業生産を国際市場向けに展開する目的でアマゾンの森林を伐採して農地に変えることで経済的利益を得ているため、開発圧力が大きいブラジル。経済基盤が比較的小さく、農業の規模も限定的であるため、森林を開発するプレッシャーが比較的強くないボリビア。経済的要因から上に示したような「境」ができているのだ。

森林破壊を純粋悪という発言の責任

 2019年に第38代ブラジル大統領としてジャイール・ボルソナーロ氏が就任した。彼は就任以来農産物輸出機会拡大を積極的に進めた。というのも、 2018年に米中間の貿易摩擦により世界最大の大豆輸入国である中国が、世界有数の大豆輸出国である米国の大豆に対する輸入関税の引上げを実施したため、大豆の国際市場ではブラジルの大豆輸出力が促進したのだ。そんな中2022年にアマゾン森林違法伐採に対する国内最大規模の取り組みを主導したブラジルの警察官幹部が降格されるという事件が起きた。政治的背景を基に森林破壊を阻止しようとするもボルソナーロ政権に抑え込まれたのだろう。この事件はただの政治圧力によって生じたケースとしてとらえるのではなく依存した産業構造のもと成立している国の共通課題、いや全世界の共通課題だと感じる。農林水産省の「ブラジルの農産物輸出の現状」によるとブラジルの主な輸出農産物(2019年1月~10月)の実に35.4%を占める大豆。過剰な農地拡大による生産性の向上は国の経済成長に直結することは想像できる。この上で大切なのはその大豆の消費者側の姿勢だろう。近年フェアトレードといって公正な取引によって発展途上国や新興国の住民の生活を助ける取り組みなどが進んでいるが、それは単なる賃金水準の担保だけではなく貿易相手国の環境の配慮も含まれて初めてフェアといえるのではないだろうか。

この環境問題について,ブラジル植物油加工業会(ABIOVE)及びブラジル穀物輸出協会(ANEC)は,これら業界団体が事務局となって,アマゾン生態系における森林伐採を伴った大豆畑で生産された大豆を取り扱わないとする「大豆モラトリアム」を2006 年から取り組んでいる。

引用元:農林水産政策研究所 [主要国農業政策・貿易政策]プロ研資料 第11号(2022.3) 第1章 ブラジル ―2021 年の振り返り及びブラジル農業部門が直面する課題について―

 

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国境によって見えた「境」は各国の経済基盤と産業構造から問題が浮き彫りになっていることを明示していた。しかしそれは該当国内で解決するのではなく地球規模環境の問題として国境や海までも超えてすべての人が念頭に置いておくべき課題なのではないだろうか。

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