クリーンなレアアースへ

先月(2026年2月)、あるニュースが報じられた。

海洋研究開発機構などは2日、南鳥島(東京都)沖でのレアアース(希土類)を含む泥の試掘作業で、深海底から泥の回収に成功したと発表した。水深6000メートル近い海底で機器が作動することが確認され、技術的に最大の壁を越えた。

引用:読売新聞オンライン

実はこのニュース、「中国一強」のレアアース市場を一変させるかもしれないとして、世界中から注目を集めているのだ。

産業の要と独占

スマホや脱炭素技術(EVや風力発電など)に欠かせないレアアースは、その採掘と精錬の過程において多大なる環境コストが必要となる。世界シェアで圧倒的な地位を誇る中国では数十年にわたる戦略的な投資によってレアアース産業が発展してきただけでなく、欧米諸国に比べて環境規制が緩いこともその理由の一つとして挙げられる。

陸上鉱山の場合、鉱床には放射性物質が多く含まれている。つまり鉱石を精錬する際、取り出した放射性廃棄物を何らかの形で処理する必要があるのだ。さらにレアアースを抽出・分離する際には強酸性の化学薬品を用いる必要もある。それらの処理も当然必要になる。

中国の内モンゴル自治区、包頭(パオトウ)1には世界最大級のレアアース鉱山、精錬所、さらに上述の有害な廃棄物を処理するための人工の湖がある。「毒の湖」と言われるこの湖の周辺の村々に住む人々は長年にわたって健康被害に悩まされ、「がんの村」と呼ばれるほどがんの罹患率が高い地域もある。土地も汚染され、草を食べた家畜は死に、肥沃だった土地は不毛な土地と化している。

さらに、17種類ものレアアースを正確に分離するには、数十年に及ぶノウハウが必要とされるが、中国はこの技術の輸出を厳しく取り締まっている。知的資本の独占である。

全17種類のレアアース。性質が類似しているため、分離が非常に困難。

かつてはアメリカでもレアアースの採掘は盛んであったが、中国における労働コストの安さと環境規制の緩さに対抗できず、鉱場は相次いで閉鎖された。仮に再び、欧米でレアアースが盛んに採掘されるようになことになったとしても、結局精錬の段階で中国に依存せざるを得ない状況となっているのである。

こうした産業の独占は、中国の国際的な地位を確固たるものとしている。それはこのごろ緊迫した中東情勢で原油価格が高騰していることからもわかるように、現代産業において非常に重要な資源が偏在することによって、その資源を持つ地域は大国に対しても強気な態度を取ることができるというものである。中国との緊張関係が高まってレアアースに関連する輸出に規制がかかれば、欧米諸国ないし日本の半導体産業は経済的に大きな打撃を受けることとなるのである。

そして中国の環境やその周辺に住む人々の健康に犠牲を強いてきたのは他でもない、先進諸国である。欧米では環境保護を謳ってEVや風力発電が盛んに導入されているが、それは途方もない環境汚染という大きな矛盾によって成り立っているのだということは認識しておく必要があるだろう。

この構造を打開するかもしれない、というのが冒頭で述べた、深海から採掘するレアアースなのである。それはただ、日本でもレアアースが産出できるようになった、というだけの話ではないのだ。

希望と緊張の南鳥島

海底にレアアース泥(魚の歯や骨の化石にレアアースが吸着したもの)があるのは既に確認されていたことだが、これまでは「深すぎて取れない」というのが常識として広く認識されていた。しかしそれを覆したのが今回の南鳥島での成功である。

加えて、レアアース泥は放射性物質をほとんど含まないほか、強酸で溶かす必要もない。そもそも、南鳥島は日本最東端の無人島であり、少なくとも人間に迷惑をかけることはない。つまり、レアアース鉱山から採れるものより、圧倒的にクリーンな資源なのである。

レアアースの中でも「重レアアース」と呼ばれるものは中国への依存度が限りなく高いことで知られているが、レアアース泥はその濃度が非常に高いことから、南鳥島は「脱・中国依存」を見据えて大きな期待を向けられているのである。

ちなみにレアアース泥を採掘することによって深海の生態系に影響を及ぼさないのか、といった調査も進行中である。単に商業化を進めるのではなく、環境への負荷を最小限に抑えようとするあたり、日本の本気度が窺える。

南鳥島の空撮。Google Mapsより。

これを快く思わない(であろう)国がひとつ。中国からしてみれば自国が握る覇権が脅かされる事態である。

そして何とも皮肉なことに、日本最東端であるということは地政学的に日本の最前線であり、それは他国の脅威の最前線に立っているということも意味する。実際、2025年6月には中国空母が南鳥島周辺の排他的経済水域内を航行していたこともあり、レアアース泥の試掘の前にはそれを踏まえた懸念もあった2

南鳥島で希望が生まれるとともに、新たな緊張関係の火種が生まれているのだ。

  1. 風傳媒 2025年8月14日「中国の「レアアースの都」に潜入:世界を脅かす武器を握る中国、その対価とは?」https://japan.storm.mg/articles/1060149#page2 2026年3月14日閲覧. ↩︎
  2. 産経ニュース 2025年12月4日「国民・山田氏、南鳥島沖レアアース試掘で中国の妨害懸念 小泉氏「安心して調査実施」重視」https://www.sankei.com/article/20251204-G25X2DJ44FDF5P3TGF6MIGY2F4/ 2026年3月14日閲覧. ↩︎

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