温暖化グルメ

温暖化によって食べ物も変化する。

動物はもちろん、野菜や果物も暑さにバテる。収量が減るだけではない。果物は色づきが悪くなり、糖度は上がるが酸味が低下して食味のバランスが崩れる。鶏が高温ストレスを受けることによって、卵の品質にまで影響が出る。卵の殻が薄くなり割れやすくなることで、流通過程での食品ロスが増加する。

他方、悪いことばかりではないのもまた事実である。今回はあえて温暖化の恩恵を受けた食を紹介していくとともに、考えを深めてみよう。

温暖化で美味しくなる?――固有性の転移

近年、イギリス産(特にイングランド南部)スパークリングワインが国際的なコンクールで優秀な成績を収めている。上質なワインと言えばフランス産というイメージを持つ人も少なくないだろう。その年のブドウの収穫を祝うボジョレーヌーヴォーも毎年(なぜか)日本のニュースで取り上げられる。そのフランス産のイメージに取って代わるのがイギリス産であり、主因は温暖化と言われているのだ。

かつてイギリスはブドウが十分熟すには寒すぎた。ただ元来、地質もフランス産ブドウの名産地と非常に似ており、温度の変化によってブドウの品質が変わることは必至であった。そして近年の温暖化の影響を受けた結果、フランスよりやや高緯度に位置するイギリスがブドウ産地として適地となり、ワインのコンクールでフランス産ワインを打ち負かすようになったのだ。

「美食の国・フランス」と「粗食の国・イギリス」。この典型的なステレオタイプも温暖化とともに変容していく可能性があるというわけだ。

当然のことながら、日本でもこうした状況は既に起こっている。以下は昨年(2024年)の記事だ。

 ところが近年、北海道~東北地方で、昔に比べてサケの漁獲量が減っている。サケは低い水温を好む魚であるため、「海の温暖化」にともなう海水温の上昇が、その要因として指摘されている。

 そして北海道では逆に、これまで漁獲量が少なかったブリが、かつてない大漁続きとなっている。近年の水揚げ量は、1990年代に比べて約20倍に達する。

 サケの本場である北海道で、主役のサケが減り、代わりにブリが増えるという、実に皮肉な状況になっているのだ。

引用:朝日新聞

温暖化の影響でサケの漁獲量が減り、ブリの漁獲量が増えていく。サケ好きにとっては痛い話だが、ブリ好きにとってはラッキーな話ではないか、などと呑気なことを言ってられない。

食文化の絶滅

ファストフードがグローバル規模に広がっていくことを「マクドナルド化」と言うそうだ。世界のどこへ行ってもほとんど同じ品質とサービスが担保されている。これほど安心できるものはない。海外旅行へ行って、現地の食文化が口に合わないようなら街に出てマクドナルドなりスターバックスなり、探せば済むからだ1

同じく、日本の「SUSHI」や中華料理、イタリア料理などが形を変えつつも世界に広がっているというのは、食の選択肢の多様性をもたらし豊かになっているという側面もあるが、その土地と結びついた文化が失われているという点で文化の多様性が失われているとも言えそうだ。

さらにマクドナルド化はもう一つの意味で食文化の絶滅を引き起こす恐れがある。それは至ってシンプルな話、環境問題を引き起こすからだ。マクドナルド化とは資本主義の拡大であるから、当然のことと言えば当然なのだ。

地球温暖化は生物の適応能力をはるかに上回るスピードで進行している。温暖化に適応できない作物や魚、家畜などが絶滅する恐れもある。マンモスは温暖化2によって生息地を追いやられて個体数が激減したところで、追い打ちをかけるように人類に狩り尽くされて絶滅したと言われている。

さらに食文化の画一化が進行することで起こる環境問題がもう一つある。

それは食の多様性の損失である。例えば大手ハンバーガーチェーンで使われるバンズ(具材を挟むアレだ)の原料が小麦であることは何となく想像がつく。効率性を重視するために同じ品種の小麦が大量に使われるであろうことも想像がつく(そしてそれ以外の品種の小麦が市場から追いやられる)。それに応える形で農場では同じ品種の小麦が何トンも生産されるわけだ。遺伝子の多様性が失われると新しい環境や病気への適応が難しくなる。究極的には絶滅することになる。

バンズが作れないとなれば何かしらで代用するに違いない。しかしそのときそれは我々が欲する「ハンバーガー」であるのか怪しい。つまりその時点でハンバーガー文化は死んでいるというわけだ。こうして原料の多様性が失われていくと料理の幅も狭くなっていく。食文化は絶滅の一途を辿る。

極寒の地で多様性の火を絶やさない

最後に小さな希望を紹介しよう。

北極圏のスヴァールバル諸島にスヴァールバル世界種子貯蔵庫というものがある。ここには地球上に存在する(あるいはしていた)あらゆる作物の種子を保存している。世界の食糧安全保障のために2004年に設立されたのだ。絶滅危惧種の動物を動物園で飼育して繁殖させる試みに近いかもしれない。作物の多様性を保全することによって、将来迫りくるあらゆる危機に対して対応できるようになっている。

例えば戦争によって農地が焼き払われ、特定の品種が絶滅危惧となっても、この貯蔵庫に保存されていれば再びその地でその品種を育てることができるというわけだ。

しかし、2016年には温暖化による永久凍土の融解によって貯蔵庫に水が流れ込み、修復作業が行われたという3。最後の砦であるはずの世界種子貯蔵庫にも温暖化は容赦なくやって来る。多様な食材を使った多様な料理を楽しむ未来は、既にユートピアとなりつつあるのだ。

  1. これに危機感を覚えて始まったのが、1980年代以降イタリアで盛んになった「スローフード」運動である(「ファスト」に対する「スロー」というわけだ)。スローフードとは可能な限り地元の食材を用いて、作り手の創意工夫を重視し、みんなと一緒にゆっくりご飯を食べることである。(竹沢尚一郎 2021「第8章 食と農」『文化人類学のエッセンス――世界をみる/変える』春日直樹・竹沢尚一郎編 有斐閣 pp.119-36.) ↩︎
  2. 自然のサイクルによって生じた1万年前の温暖化であって、現在起きている温暖化とは異なり、気温上昇はかなり遅い。 ↩︎
  3. JIRCAS「99. 世界種子貯蔵庫のある北極圏スバルバル諸島で史上最高21.7度観測」2020年7月31日 https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200731 2025年11月21日閲覧 ↩︎

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