EUの実態に隠された環境先進国の闇

 フィンランド、スウェーデン、ノルウェー。

「環境先進国」と検索をかけてみると北欧を中心とした国々が目に入る。そして北欧に続き、よく先進的だといわれるのがドイツだ。これもまた有名な話なので多くの人が知っているかもしれない。ではなぜここまでヨーロッパは多くの国が環境に先進的であるといえるのだろうか。様々な意見が飛び交う中で今回はEU(ヨーロッパ連合)という観点から電力をはじめとした環境パフォーマンスの高さを見ていこう。

原発ゼロを選んだドイツ、原発大国フランスに支えられる皮肉

 多様な歴史、文化、伝統を持つ中央ヨーロッパに位置するドイツ。そんなドイツは以前から環境先進国として名高い評価を得てきた。例えばEPI。昨年、イエール大学とコロンビア大学によって各国の環境パフォーマンスを測定して指標化したものであるEPI(環境パフォーマンス指数)の2024年度版国別ランキングが公表された。エストニア、ルクセンブルクに続き三位のドイツ。やはり気候変動対策に続き生態系持続力、環境衛生の観点などを包括的に見るとパフォーマンスが高いことが見て取れる。

 そんなドイツのエネルギー政策に本章は論点を絞って話を進めていこう。2045年までにカーボンニュートラル達成を目指すドイツでは一昨年、長い議論の末に原子力による発電を完全に終了した。俗にいう、脱原発国になったのだ。この決断はカーボンニュートラルを達成するうえで大きな「足かせ」になっている。2045年までに全セクターで温室効果ガスの実質排出量をゼロにする目標を達成したいのならば、事実上風力や太陽光はじめとした再生可能エネルギーだけで成り立たせなければならない。化石燃料に依存しないエネルギー構成での大きな課題は何といっても「安定性」だ。今年の春ごろに起きたスペイン、ポルトガルでの大停電の際も再エネによる不安定感が課題として挙げられていたがやはり再エネは一言でいうと「脆い」。そこでどうしても注目が浴びせられるのが原子力発電だ。では、脱原発国であるドイツは2045年までにカーボンニュートラルを達成できるのだろうか。実はドイツのエネルギー構成には「フランス」が絡んでいるのだ。フランスはEU内で行われている統合電力市場で大きな売り手を担っているのだ。そう、ドイツはフランスから電力を買っているのだ。ドイツがフランスから購入している電力の多くは、原子力に由来している。

 

発電所, 冷却塔, 石炭火力発電所, 煙突, 電気, 環境, テクノロジー

 フランスは電源構成の約7割を原子力が占める「原発大国」であり、EU域内における安定した電力供給国のひとつだ。再エネの比率が高まりつつあるドイツでは、風が吹かない「カーム」や日照不足の時期には電力供給が不足しやすく、その穴をフランスからの輸入電力で補っている。つまり「国内の原発は止めたが、他国の原発には依存せざるを得ない」という皮肉な構図が浮かび上がる。

 この状況は単なるエネルギー問題にとどまらず、EUの政策的矛盾も映し出している。EUは2050年までの域内カーボンニュートラルを目指しており、原子力を「グリーン投資」として認める方向性を打ち出した。しかし、ドイツはこれに強く反発し、自国の政策では原子力を排除する立場を貫いている。それにもかかわらず、結果的にはフランスの「グリーン電力(原子力由来)」に助けられているという現実があるのだ。

 さらに付随して、欧州委員会は2022年に「原子力と天然ガスを一定条件下で持続可能投資と認める」タクソノミーを策定したが、ドイツはこれに強く反発した。他方でフランスや東欧諸国は「原子力なしにカーボンニュートラルは不可能」と主張し、域内の分断は深まっている。ドイツの「矛盾」は深刻化を増すばかりだ。

EU内部電力市場をめぐる対立

 最後に総括して前章で少し出てきた統合電力市場について論じよう。EUは域内単一市場の理念をエネルギー分野にも適用し、1990年代以降「Internal Electricity Market(IEM)」を整備してきた。その目的は、国境を越えた電力取引を促進し、供給の安定性と市場競争による価格低下、そして気候変動対策を両立させることにあった。実際、送電網を通じて加盟国は余剰電力を相互に融通でき、域内全体としての効率性は高まっている。しかしカーボンニュートラルという共通目標の下でも、加盟国間の「電源構成」をめぐる対立は深刻化を深めているというわけだ。つまり、IEMは電力を融通する仕組みとして機能しているが、その電源の正当性や環境評価をめぐって共通認識がない点は大きな弱点である。

 総じて、IEMはEUにとって「連帯」と「分断」を同時にもたらしている。電力を相互補完しながら効率性を高める一方、各国のエネルギー主権や価値観の違いを露呈させ、政策的整合性を揺さぶっているのである。2045年あるいは2050年という野心的なカーボンニュートラル目標に向け、EUは単なる市場の統合にとどまらず、電源構成をめぐる「政治的合意形成」という難題に直面している。

電気, 電力線, 電柱

 とはいえ、ドイツの挑戦は単なる失敗の物語ではないと思う。私自身はドイツの決断を大きく評価している。世界第4位の経済大国が大胆に原子力を手放し、再生可能エネルギーだけでエネルギーシステムを構築しようとする試みは、国際社会にとっても大きな実験である。もしドイツが2045年までに本当にカーボンニュートラルを実現できれば、「原子力なしでもやり遂げられる」ことを証明することになるだろう。しかしその道のりは険しく、現状では「フランスの原子力」という支えなしには歩めないのが現実だ。

 結局のところ、ドイツのエネルギー政策は理念と現実の狭間で揺れ動いている。理想を掲げながらも他国の原発に依存する皮肉を抱えつつ、EUという大きな枠組みの中でカーボンニュートラルにどう向き合うのか。

その姿勢は、今後ますます国際的な注目を集めるに違いない。

…と言っている場合でないほど日本も迷走を極めているではないか。

(参考文献)

France in focus as Europe’s electricity import needs swell | Reuters

EUの実態に隠された環境先進国の闇” に対して1件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です