環境問題には漢方薬を

漢方薬を飲んだことがあるだろうか。病院や診療所で処方されたことがあるという人もいるかもしれないが、あまり馴染みがないという人も少なくないだろう。

我々にとって馴染み深い医療と言えば西洋医学である。しばしば病に対する向き合い方が大きく異なる東洋医学(漢方医学)と対置されて語られるが、本稿ではこれらの異なるアプローチの有効性を示しながら環境問題との関わり方を考えていくこととする。

心身〇元論と医学

17世紀の哲学者デカルトは心と身体とを切り離して考える「心身二元論」を提唱した。身体は「機械」であり、それを動かす臓器は「歯車」であるといったデカルトの考え方を基に、現代に至るまで西洋医学は飛躍的な発展を遂げることになる。解剖学の発達や身体の特定の部位や病原体に焦点を当てた研究が進められるようになり、外傷や感染症に対して絶大なる有効性を発揮していくのだ。膨大な症例を記録し、病気に名前をつけて分類し、「この病にはこの薬」といった法則に基づいて治療を行う。病の原因を特定さえすればそれを徹底的に叩くのみ、というアプローチが西洋医学なのである(ちなみに「難病」と呼ばれる病は原因不明=治療法が不明、よって完治が困難ということである)。

一方で、東洋医学の基盤は「心身一元論」であり、「病は気から」という慣用句に象徴されるように心と身体を一体のものとする考え方である。患者の症状や元来の体質だけでなく、その人自身が置かれている環境や背景をも考慮しながら、証(しょう)と呼ばれる診断結果を出す。即効性に欠ける面もあるが、「一時的に痛みを抑える」などといったその場しのぎ的なアプローチではなく、それぞれの患者に合わせたより根本的な治療をするというのが特徴だ。

例えば、頭痛を訴える患者に対する西洋医学的なアプローチは頭痛薬を処方することである。一方で、東洋医学ではその頭痛が季節によって生じるものなのか、冷えからくるものなのかなどによって異なる漢方薬を処方する。

西洋医学が「なぜ Why」を重視するのに対し、東洋医学は「いかに How」を重視するのである。それぞれに得手不得手があり、一概にどちらが良いと判断することはできないが、本稿では環境問題に対する向き合い方として東洋医学から示唆を受けたい*。

ミクロの問題はマクロの問題でもある

これまでの記事で繰り返し述べてきたように、環境問題を社会のあらゆる問題と絡めて捉えることは非常に重要である。そしてこの捉え方が東洋医学の病に対する向き合い方と非常に親和性が高いことは、本稿で東洋医学を取り上げた理由の一つである。

西洋医学の発達とともに誕生した抗生物質は体内で代謝しきらずに、半分以上が排出され下水に流出すると言われている。そうして環境中に放出された抗生物質に曝されることにより、細菌が薬物に耐性を持つようになるという。それは未病の原因となり、パンデミックを引き起こすことにもなりかねない。あるいは温暖化による急激な環境変化に適応しきれずに起きる不調もあり得る。こうした今後起こり得る未知の病に対しては東洋医学的な、全体論的アプローチが大きな効果を発揮するのではないかと考えている。健康問題を個人の問題として捉えるのみならず、地球規模にまで拡大して考えるのである。

環境破壊が進行し、それにより気候変動が起き、さらにそれが環境破壊を進行させるといった悪循環が生じていることは今さら言うまでもない。この加速度的な「自然の減少」が人々の健康に直接与え得る影響も考えていきたい。

都市部の生活に疲れた人が休暇を利用して自然と触れ合うことによって心身を癒す、といった話はありきたりだが、重要な示唆を得ることができそうだ。これは裏を返せば、自然と触れ合わないことによって人間は気力を失う可能性があると言うことができるからだ。東洋医学的に診断するならば、「生命力虚証」とでも言うべきか。

もちろん都市生活を送る人々全員が自然環境に身を投げ込むことで心身ともに回復すると主張したいわけではない。ただ一方で、自然環境が持っている「気」が人間の「気」に影響を与えるといった伝統的な東洋医学の考え方に基づくと、それは至極当然のことでもある。

自然と触れ合うことが心身の不調の改善に繋がりうるのであれば、環境保全の活動はある意味で「治療」と言えるかもしれない。そう考えると環境問題を解決することが最も根本的な治療法かもしれないが、現に発生している問題である以上、その問題が引き起こしている諸問題には同時並行的に対処していかなければならない。そして何より環境問題の解決は容易ではない。

ただ今後は環境問題が社会の諸問題と複雑に絡み合っているように、健康も個人の問題として捉えるには限界があるという考え方が浸透していくに違いない。そうなれば健康は淡々と原因に対処するだけの単純な問題ではなくなり、環境問題を含むあらゆる問題を総合的に踏まえて考えていく必要が出てくる。そのとき健康問題は環境問題であり、環境問題もまた健康問題となっているのだ。

*筆者は決して東洋医学を推奨しているわけではない。本稿はあくまで東洋医学のアプローチから諸問題の捉え方を学ぼうという試みである。ちなみに西洋医学では近年「総合診療科」という、まさに全体論的なアプローチによって病気の平癒を目指すものが注目を集めているということはここで言及しておこう。

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