サンゴを守る「サンスクリーン法」
太平洋に浮かぶ島々から成り立つ観光地、ハワイ。
年間を通じて温暖な気候に恵まれ、美しいビーチや雄大な火山、豊かな自然が魅力である。その魅力を楽しもうと、世界中から人々が訪れ、サーフィン、シュノーケリング、ハイキングなどアクティビティを楽しむいわば「バケーション」の代名詞となっている。さらに多様な文化が融合しており、フラダンスやウクレレ、ローカルフードなど独自の伝統も楽しめる。読者の中にもおそらく行ったことがある人や行ってみたい人がいるのではないだろうか。

そんなハワイで2021年新たな法律が制定された。それが「サンスクリーン法」だ。この法律が絶大な注目を浴びている。
ではその「サンスクリーン法」とは何なのだろうか。
Hawaii’s Sunscreen Law
ハワイといったら、自然と調和した観光地として有名だ。その壮大な自然の要素の一部であるサンゴ礁。ハワイでそのサンゴ礁が死滅の危機に瀕していることが分かったのをご存じだろうか。サンゴ礁、特に若い幼生のサンゴの多くに白化する現象が見受けられるようになったのだ。
原因の解明が早急に行われ、2016年、Archives of Environmental Contamination and Toxicology(※1)に掲載された研究で、オキシベンゾンという化学物質が、サンゴの幼生に奇形を引き起こし、サンゴの死亡率を増加させる可能性があることが判明したのだ。主な原因物質はオキシベンゾンに加えて、オクチノキサートと呼ばれる化学物質でオクチノキサートは、サンゴのDNAを損傷する「フリーラジカル」というUVフィルターの生成を増加させることにより、サンゴの細胞を破壊することが分かったのだ。オキシベンゾンもオクチノキサートも日焼け止めに含まれている化学成分でこの問題の根本的原因が示されたも同然だった。
その後アメリカ、ハワイ州は早急な対応に迫られた。何せ世界有数の観光地であり、年間に900万近くの観光客が訪れる。つまるところ900万人近くの人が1年に日焼け止めを塗って海水浴をするということだ。
2021年1月1日、サンゴ礁の保護を目的として「サンスクリーン法(Sunscreen Law)」が施行された。概要としてはサンゴ礁の白化やDNAの損傷を引き起こすオキシベンゾンとオクチノキサートを含む日焼け止めの販売や流通を禁止するといった内容だ。
「インパクト大」であるサンスクリーン法
今回のこの事例は世界中でとても注目を浴びている。というのもなぜなら、今だからこそ見つめ直すべき問題が顕在化しているのだ。
まず前提として、単純にサンゴ礁の危機が深刻であることは忘れてはいけない。近年世界中のサンゴ礁の喪失が問題視されている。研究機関によっては約50%のサンゴ礁がすでに失われたというデータもある。原因はさまざまあり、海水温の上昇、強烈な海洋熱波、海洋酸性化などの地球規模の課題も関係しているが、ローカルな課題に海洋汚染があげられる。今回でいうローカルな海洋汚染とはサンゴ礁を死滅させる可能性のある物質を含む日焼け止めが日常的に使われているということだ。そこに着目し、ハワイにいる人たちだけでも行動を規定することは立派なサンゴ礁の保全活動につながる。いわばact locallyな考え方だ。
法的規制をかけることで、個人の行動にうまく落とし込み小規模での変革へとつなげようとする、まさに環境問題を「自分ごと」できているのではないだろうか。特に今回のケースは対象物が日焼け止めという多くの人が使う日常品というのもポイントだ。日常品が海や自然に与えるダメージが見えにくいため、法律をきっかけに問題が可視化され、注目を集めた。身近な製品が環境に与える影響への気づきがこれほどまでに分かることは市民へのインパクトが大であることがよくわかるだろう。

そして忘れてはいけないのが、この法律が制定されたのが「ハワイ」ということだろう。有名な観光地で導入されることで、その地に住んでいる人以外の外部者にも知れ渡りやすかったということだ。この取り組みのインパクトは観光業と環境保護の両立モデルとして他地域にも影響を与えている。
何はともあれ、サンスクリーン法は「身近な行動の変化」が「地球規模の環境保護」につながるという点で、今後ますます注目されると考えられる。
観光客に「関係ない」とは言わせない
サンスクリーン法において、観光客が適用成分を含む日焼け止めを持ち込んだり使用したりすること自体は、現時点では禁止されていない。このことを指摘する声が聞こえてきそうだが、サンスクリーン法が観光客の持ち込みには適用されていない現状から、今後ハワイではさらなる規制強化や啓発活動の拡充が進むと考えられる。例えば、州政府や観光業界は、空港や宿泊施設で「リーフセーフ」製品の使用を推奨する案内や、無料配布、現地限定の特典などを通じて、旅行者の意識と行動を変える取り組みを強化するだろうし、もしかすると既に、しているかもしれない。また、現在は販売・流通の規制に留まっているが、今後は使用自体を禁止する動きが他の地域にも広がることだって予想できる。実際、マウイ郡ではすでに禁止されているようだ。さらに、環境教育やエコツーリズムといった観点から、観光客自身が自然保護の担い手であるという意識を育てる施策も重視されるだろう。これにより、持ち込み制限という直接的な法改正を行わなくても、実質的な環境負荷の軽減が期待される。
輸送技術の発展に伴い各々の地域で抱える環境問題は観光客までも視野に入れた対策が求められる時代だ。様々な手法を用いて、小規模に「実行」して「広める」ことが今後重要になってくるかもしれない。
※1Direct and indirect effects of sunscreen exposure for reef biota | Hydrobiologia


