1/3の「ムダ」を見直す
先週、公正取引委員会が食品の流通に関する実態調査の結果を公表し、「1/3ルール」に関して独占禁止法の「優越的地位の乱用」に当たる恐れがあるという趣旨の内容を公表した。大量廃棄の根底に根付く1/3ルールは日本の食品業界の大きな課題と長年されてきた。それがついに見直されるきっかけができた今、改めて食品産業に潜む闇に眼を向けてみよう。
1/3ルールとは
「1/3ルール」とは、日本の食品業界で使われている商慣習のひとつで、製造日から賞味期限までの期間を3等分し、その最初の1/3の期間内に小売店へ納品することを求めるルールのことだ。
これは正式な法律ではなく、いかにも日本的な業界の暗黙の了解や流通上の慣例として長年続いてきたものだ。これだけ言っても想像しにくいと思うのでもう少し説明しよう。
たとえば、ある食品の賞味期限が製造から90日(約3か月)だとする。この状況において、その食品は製造日から30日以内(=1/3)に小売店に納品する。これは残りの60日(=2/3)で販売・消費されることを想定しているからだ。
このため、製造から31日経過した食品は、まだ賞味期限まで59日も残っていても、スーパーには納品できないということになる。
1/3ルールは、消費者に「できるだけ賞味期限の長い商品を提供したい」という小売側の要求に応える形で生まれた。特にコンビニやスーパーでは、陳列から消費まである程度の猶予が求められるため、「古い在庫を持ちたくない」という事情があるのは想像できる。しかしその結果として、食品ロスの大きな原因のひとつとなっているのだ。賞味期限までまだ余裕があるのに、納品期限を過ぎたために廃棄される食品が年間で何十万トンにもなっているということは、つまるところ「表に出ないことで、消費者の前に姿を現さずに捨てられる食品が年間に何十万トンもある」ということだ。

問題はそれだけではない。
製造側は頻繁に新しい商品を作る必要があり、在庫管理も難しくなる。1/3ルールによって流通における効率が低下して、コストが増大するのだ。
消費者にとって1/3ルールは、「新しい商品しか棚に並ばない=常に新鮮」というメリットがある一方で、その裏では「まだ食べられるのに捨てられる食品」や「価格に転嫁されるコスト」が発生しているという現実が突きつけられているのだ。
フードロス削減へのシナリオ
農林水産省の名誉のためにも言っておくと、よく1/3ルールと付随してあげられる「2030年までに食品ロス半減」という国が掲げている目標は2024年6月に達成されている。
農林水産省は、食品ロス削減の取組を一層促進するために、食品ロス量の推計を行い、消費者庁、環境省とともに公表しています。
令和4年度の食品ロス量は472万トン(前年度比▲51万トン)、このうち食品関連事業者から発生する事業系食品ロス量は236万トン(前年度比▲43万トン)、家庭から発生する家庭系食品ロス量は236万トン(前年度比▲8万トン)となりました。
これにより、2030年度までに2000年度比で半減(547万トン→273万トン)するという事業系食品ロス削減目標を達成しました。
この目標はよく1/3ルールが目標と逆行していることを指摘するために挙げられてきたが、事実、食品ロスは大幅に減少している。国(農林水産省や消費者庁)も食品ロス削減の一環として、このルールの見直しを事業者に呼びかけており、今回の公正取引委員会の指摘はフードロス削減に拍車をかけることが推測できる。
努力をしているのは何も国だけではない。イオンリテールやイトーヨーカ堂など大手スーパー各社は納品期限を1/2に緩和したり、製造日表示ではなく消費期限表示に切り替えるなどの取り組みを始めている。納品期限緩和については、大手企業を主体に取り組みの拡大が図られているが、地方の食品スーパーなどへの拡大が今後の課題となっている現状が浮き彫りになっているのは否めないだろう。
厳正な対処の先にある「もったいない0」へ
話題を先週のニュースに戻そう。1/3ルールは優越的地位の乱用として独占禁止法違反の可能性が示唆されているわけだが小売り側の要望に応えるために始まったこの慣習は期限までに納品できなかった場合、費用を全額負担させられるといったことがメーカーの負担として顕在しているようだ。
確かにこれは取引上で立場が強い企業が、その力を利用して相手方に不当に不利益を与える行為といえるかもしれない。この不誠実な制度が今後どう規制されるか注目したい。

1/3ルールはこれまで「新鮮さの確保」という小売業の都合を背景に、食品流通全体に強く根付いてきた。しかし、賞味期限まで余裕のある食品が店頭に並ぶ前に廃棄されるという現実は、消費者の目に触れることなく膨大な食品ロスを生み出していた。こうした状況に対し、今回の公正取引委員会による「優越的地位の乱用」にあたる可能性の指摘は、商慣習の見直しに向けた大きな一歩となる。
先述したが、すでに国は2030年目標を前倒しで達成し、大手流通企業も納品期限の緩和や表示方法の見直しに動き出している。今後はこれらの取り組みを地方の中小企業や地域スーパーにも広げ、業界全体として一体的に改革を進めていくことが求められるだろう。食品業界にとっても消費者にとっても、持続可能な社会を築くためのターニングポイントが、まさに今訪れている。


