温暖化で揺れ動く北極圏

近年、北極地域が世界中から注目を浴びている。

言わずもがな、現在地球温暖化の影響で北極地域の氷が融解している。しかしそれに伴って新たな国際航路が見出されるかもしれないということ、未開発の地下資源の採掘が可能になるかもしれないということなど、北極地域の持つ潜在的な可能性――既に顕在化してきているが――に注目が集まっているのである。

そのためアメリカ、ロシア、中国といった大国をはじめ、多くの国が北極地域の権益を虎視眈々と狙っているのだ。

グリーンランドを取り巻く「温暖化」

先日(1月30日)、北極地域に関する以下のようなニュースが報じられた。

ルビオ米国務長官は30日、グリーンランド獲得は米国の国益にかなうとし、購入に対するトランプ大統領の関心は「冗談ではない」と述べた。

引用:ロイター通信

前回の大統領就任以来、トランプ氏はグリーンランドに対する獲得意欲を積極的に示してきたが、2度目の大統領就任を機にその意欲を実践へと移す動きを見せるかもしれない。

ちなみにグリーンランドとは、デンマークの自治領で、世界最大の島である。島の大半は氷床に覆われており、主要な産業は漁業である。財政はデンマークの補助金に大きく依存している。しかし実は温暖化によってデンマークへの依存から脱する可能性があるのだ。

まず、漁業に関しては、海氷の融解によって船を出せる期間が長引いたり、船で入れる場所が拡大したりしていると言う。それまで氷で閉ざされていた場所に大きな魚が生息しているということもあるようで、漁業の可能性が広がり続けている。

鉱業に関しても同様にプラスに働くことだろう。むしろ温暖化により一大産業となりうる潜在性を秘めている。というのも、地下に埋蔵されているレアアースは各国が温暖化対策を進める上で必要不可欠な天然資源なのだ。温暖化の進行によって温暖化対策が進む、というのは何とも皮肉な状況ではあるが、グリーンランドの経済的自立に向けて大きな前進となるはずだ。

グリーンランドの人口のほとんどは先住民のイヌイットで、デンマークの文化とは大きな隔たりがある。さらにデンマーク語が話せなければ高等教育を受けることができないことや先述の財政状況から推察されるように自治政府とデンマーク政府との間に権力関係が生じていることなど、グリーンランドの人々はデンマーク国内において社会的に脆弱な立場に置かれているのだ。よってこうした経済的発展の兆しが見えてきたことで領内では独立の機運も高まってきており、単に「大国の権益争いに巻き込まれる地域」として捉えるのは適切ではない。

温暖化が経済的自立の引き金となり、それが政治的自立にも繋がりうるのだ。彼らの行先は彼らに決定権があると信じたい。

欧亜を結ぶ最短航路?

北極海航路は既存の航路における欧州・アジア間の航行距離を約4割短縮できると言われている。2021年にスエズ運河座礁事故、それに伴う航路封鎖は北極海航路への世界の関心をより一層高めたことだろう。国際物流において最重要航路の一つとなる可能性があるのだ。

中国は北極海に面していないが、この北極海航路を「氷上シルクロード」としてその権益を狙っている国の一つだ。既存の一帯一路政策に加えようという思惑だ。アメリカはこの動きを警戒している。トランプ氏のグリーンランド購入に関する発言も、こうした中国の動きを牽制する狙いがあるとも言われている。

北極圏国8か国で構成されている北極評議会においては「北極における持続可能な開発、環境保護といった共通の課題について協力等を促進することを目的とする(引用:外務省)」として北極圏の利権に関して議論が重ねられているようだが、この利権争いに中国が介入することにより事態はより複雑化することだろう。

日本も北極海に面してこそいないが、アジア地域では最も北極に近い国である。米中ロをはじめとする各国の動きは注目に値する。

北極は「遠い地の話」ではない

温暖化によって環境面だけでなく、経済面・政治面においても大きな変化が見られる北極地域。「気候変動の最前線」としばしば言われるが、「新たな冷戦の最前線」とも言えるような、大国の対立の象徴となる地域ともなりつつある。一方で、グリーンランドのようにかつての民族自決運動を彷彿とさせるような動きが活発化していることも目が離せない。米ソの代理戦争で各国の不安定な情勢が利用されたように、そうした運動が権益争いにおいて効果的に働きかねないからだ。

つまるところ何を述べたいのかというと、環境問題は単に環境変化の問題ではないということ、さらには環境変化に伴って絶えず社会も変化し続けているということを頭の片隅に入れておくべきだということだ。いくつかの記事を通して伝えてきていることかもしれないが、環境ばかりに気を取られていては問題の本質を見失う恐れがある。日本からしてみれば北極地域など遠い地の関わりのない話にも思えるが、政治や経済の問題として捉えることによって――卑近というには大げさだが――決して疎遠な話とも思えないはずだ。

その上で、我々が環境問題に対してどういった姿勢であるべきなのかをそれぞれが深く考える必要があるだろう。

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